1.「自分で請求できる」という情報の落とし穴
最近では、社労士のホームページやブログで手軽に情報を得られるようになったことから、事後重症請求や認定日請求をご自身で行う方が増えてきました。
しかし、「不支給」という結果が出てしまった場合、「不服申し立て(審査請求・再審査請求)」について調べようと思っても、参考になる情報はほとんどありません。手続きの流れを解説する記事はあっても、「審査請求書に具体的に何をどう書けばいいのか」を詳細に記したものは極めて少ないのが現状です。
仮にい、記事が見つかったとしても、それがあなたに当てはまるとは限りません。障害年金は、年齢、初診日、傷病名、症状、生活環境、就労状況など、一人として同じ条件の人はいないからです。
障害年金の請求は基本的には最初の請求で受給権を取るべきものです。とはいえ、必ずしも思う通りにいくわけでもなく、不支給だった場合、その後不服申し立てを行う必要が出てきます。
最初の請求段階で診断書や申立書にあやふやな記載、要は請求人が後々に合理的説明がつけられないようなものがもしあれば、提出の前に修正しておく必要があります。それを気づかず、病歴就労状況等申立書に書いてしまうと、後々修正がきかなくなります。
診断書と申立書はあくまでも一体のものです。医師が勝手に自分の所見を述べ、請求人が、これまた、自分の辛さや苦しみを思いつくがままに申立書に書いていく、これでは整合性は取れません。その整合性が取れていない所を、保険者は突いてきます。
2. 「あの人がもらえたから」を基準にしない
相談を受けていると、よくこのような話をお聞きします。
⇒「病院で知り合った同じ病気の人は2級をもらえたのに、なぜ私はダメなの?」
⇒「うつ病の友人が『申請すればもらえる』と言ったから出したのに、不支給だった」
⇒「自分より軽症に見える妹は受給できた。私だけもらえないのはおかしい」等々
はっきり申し上げますが、他人の成功体験は、あくまで「その方だけの個別ケース」です。審査は請求される方の「診断書」と「病歴・就労状況等申立書」の記載内容に基づいて行われます。他人が受給できたから同じような症状の自分も受給できる、という考えは全く意味のないものです。
思い詰めるがあまり、「なぜ自分だけ支給されない」という思いから、うつ状態を悪化された方もいました。
それぞれの方がそれぞれの事情で、様々な症状を抱えています。全く同じ方はいません。「誰それが受給できた」は何の根拠もない思い込みです。
3. 医師が「2級相当」と書いた診断書でも落ちる
「先生が協力的なので安心です」という方も注意が必要です。
医師が作成した診断書を、受け取ってから確認もせず、年金事務所の窓口で言われるがまま書類を揃えて提出するだけでは、受給できるものもできなくなります。
たとえ医師が「2級相当の診断書を書いた」と言って手渡された診断書であっても、実際の審査では不支給になることは珍しくありません。
かつては「判定の目安(ガイドライン)」が一定の指標になっていましたが、昨今ではこの目安さえも当てにならなくなってきています。
ガイドラインの「障害等級の目安」を見ていただくと、下の方に<留意事項>として
「障害等級の目安は総合評価時の参考とするが、個々の等級判定は、診断書等に記載される他の要素も含めて総合的に評価されるものであり、目安と異なる認定結果となることもあり得ることに留意して用いること。」とされています。
医師の中には、この目安通りに印をつければ支給されるものと考えている方が、まだ一定数おられます。
加えて、昨今カルテの開示を求められることが増えいます。
いくら診断書の内容が重く書かれていても、カルテの内容が診断書と相違いているような場合、保険者が重要視するのはカルテの方です。
4. 立ちはだかる「総合評価」という巨大な壁
不支給となった際、次に立ちはだかるのが「総合評価」という審査基準です。 ガイドラインには、等級の判定について以下のように記されています。
「障害認定基準に基づく障害の程度の認定については、このガイドラインで定める後記1の「障害等級の目安」を参考としつつ、後記2の「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で例示する様々な要素を考慮したうえで、障害認定診査医員(以下「認定医」という。)が専門的な判断に基づき、総合的に判定する(以下「総合評価」という。)。 総合評価では、目安とされた等級の妥当性を確認するとともに、目安だけでは捉えきれない障害ごとの特性に応じた考慮すべき要素を診断書等の記載内容から詳しく診査したうえで、最終的な等級判定を行うこととする。」
つまり、目安で2級相当の点数が出ていてもそれ以外の要素(一人暮らし、短時間の就労、家族の援助など)を「総合的に」見て、最終的な等級を決めるという意味です。
この「総合的に」という言葉が、不服申し立ての際に、大きな壁となります。
• 「外出もできず、働けないのになぜ3級にもならないのか」と訴えても、保険者は「総合的に評価」をした結果だと言います。
• 認定調書にADLが保たれていると記載されている。だが、診断書の内容は「日常生活能力の判定」平均が3.0、「日常生活能力の程度」が(4)だと主張をしても、
保険者は「それらも含めて「総合的に評価」をし結果不支給だ」」という回答を繰り返すばかりです。
私が昨年(2025年)に、8年間うつ病で闘病している女性の口頭意見陳述をおこなった際、質問を6項目行ったところ、そのうちの5項目について「総合的に評価したため」との返答が返ってきました。もちろん、具体的な根拠や説明は一切ありません。
5. 最初の請求で勝負が決まる
精神疾患において、一度出た「不支給」の判定を不服申し立てで覆すのは至難の業です。正直に申し上げれば、我々社労士にとっても容易なことではありません。
だからこそ、「最初の請求段階」で、いかにこの総合評価を有利に運ぶため、綿密に書類を仕上げていくかにかかっています。
診断書に記載される内容は限られています。障害年金を専門とする社労士は、認定医がどこに着目し、どのような記載がマイナス評価として揚げ足取りに使われるか熟知しています。
もちろん、医師に不当な要求をすることはできません。あくまでも、診断を下すのは医師です。
ですが、「伝え方や書き方の工夫」ひとつで、結果が180度変わる場合も多々あります。
確かに、ご自身で請求され、問題なく受給される方も大勢おられます。
ただ、精神疾患の場合、支援してくれる方がいない場合は、年金事務所へ相談に行かれるか、お近くの社会保険労務士に一度ご相談されてみることをお勧めいたします。








